コラム

AIにどこまで任せるか、お盆休みにうちで決めた話

食卓に色鉛筆とマーカーを広げ、紙にキャラクターを描いている手元

お盆の最後の休みに、うちでLINEスタンプを作りました。

iPadはあるので、最初から最後までデジタルでやることもできました。でもそうはせず、紙に描くところから始めています。新しい道具の使い方を覚えるところから始めると、それはもう休みの日の遊びではなくなるからです。いつものお絵描きの延長で、その日のうちに終わる形にしたかった。

食卓に色鉛筆とマーカーを広げて、麦茶を置いて、Switchが出しっぱなしの横で描いています。特別な準備は何もしていません。

結果として、AIにどこまで任せるかを2回にわたって変えることになり、そのたびに出来上がるものが変わりました。仕事でAIの相談を受けることが増えたので、その記録として書いておきます。

1本目:9歳が線を描き、仕上げをAIに頼んだ

まず9歳の子どもが、紙にうさぎを16個描きました。鉛筆の線だけ、色はなし。1枚に何個も並べて、紙を何枚か使っています。

紙に鉛筆で描かれたうさぎのキャラクターの下絵
9歳が描いた原稿。この紙のほかにも何枚か描いています

これを複合機でスキャンして、あとはAIに渡しました。1枚の紙に並んだ絵を1個ずつ切り分ける作業も、こちらでは手を動かしていません。頼んだのは「これをスタンプの絵に仕上げてほしい」ということ。線を整えて、色をつけて、背景を抜いてもらう。

出来上がりは、率直に言って可愛かったです。線はなめらかで、頬にはやわらかい赤みが入って、耳の内側はピンクに塗られていて、ちゃんと売り物の顔をしていました。これがその日の午前中に16個そろった。

並べてみて、気づいたこと

出来上がった16個を、元の絵と並べてみました。

上段が子どもが紙に描いた線、下段がAIで仕上げたスタンプ。ポーズは同じだが線は別物
上が9歳が紙に描いた線、下がAIの仕上がり

9歳の線が、1本も残っていませんでした。

ポーズは同じです。手を挙げている絵は手を挙げているし、頬に手を添えた絵は頬に手を添えている。でも輪郭の歪みも、耳の左右の長さの違いも、震えた線も、全部きれいに直されていました。目の描き方も違う。頬のハートは、元の絵にはありませんでした。

これはAIの不具合ではありません。ChatGPTの画像生成は加工ツールではなく、渡した絵をお手本として見て、新しく描くものだからです。「仕上げて」と頼めば、そのとおりに仕上げてくれる。ただ、仕上がったものは別の絵になっている。

頼んだのは自分なので、文句を言う筋合いはありません。ただ、並べるまで気づかなかったのは事実です。単体で見ているぶんには、可愛くなったとしか思わなかった。

2本目:妻が描き、文字も手で書いた

1本目ができていく途中を横で見ていた妻が、自分も描くと言い出しました。同じ日に、もう1セット。今度は最初から色までつけています。

マーカーと色鉛筆で描かれたキャラクターの原稿
2本目の原稿。こちらは最初から色までつけています

問題は文字でした。「ありがとうございます」「おつかれさま」といった言葉を、スタンプには入れる必要があります。最初は手書き風フォントを当てるつもりでいました。そのほうが読みやすいし、揃うので。

そう言ったら、「オリジナルがいい」と返ってきました。

それで文字も手で書いてもらい、AIに頼んだのは絵と文字を合わせて規格に収める作業だけにしました。

ありがとうございます、おつかれさまなど、スタンプに入れる言葉を手書きした紙
言葉を書き出した紙。複合機からは横倒しで出てくるので、起こすのもAIに任せました

出来上がったものを見ると、「わーい!!!」の3つのビックリマークが勢い余って傾いています。「おねがいします♡」は最後のほうで字が少し小さくなっている。手書き風フォントなら絶対にそうならない崩れ方で、それが良かった。

上段が紙に書いた手書き文字、下段が出来上がったスタンプ。字の崩れも傾きも残っている
紙に書いた文字が、崩れも傾きもそのままスタンプになっています

手書き風フォントは、手書きに似せて作られた工業製品です。何回打っても同じ字が出る。似ていることと、本物であることは違う、というのを、実物を並べて教えられた形になりました。

「次は文字まで書けばいいんだね」

2本目を作り終えたときに出たのが、この一言でした。

左が線だけ描いてAIに任せた1本目、右が絵も文字も手で描いた2本目
同じ日に作ったものです。任せる範囲を変えるだけで、ここまで変わりました

1本目は線だけ描いて、あとは全部AI。2本目は絵と文字を描いて、AIは合わせるだけ。回を追うごとにAIに任せる範囲が減って、そのほうが良くなった。 これは作る前には分かりませんでした。1本目を作って、並べて、初めて分かったことです。

同じ日に作った2つを、同じ日に申請しました。今はどちらも審査待ちです。

一方で、全部任せてよかったこともあります

ここまで「AIに任せる範囲を減らしたら良くなった」と書いてきましたが、それは絵の話だけです。絵以外は、最初から最後まで全部AIに任せました。そしてそれは全部よかった。

  • 向きの補正 — 複合機から出てくるスキャンは、横倒しになっていたり上下が逆だったりします。これを起こすところから任せました
  • 切り分け — 1枚の紙に描かれた絵を、1個ずつのファイルに分ける
  • 規格合わせ — LINEスタンプには細かい決まりがあります。1個あたり最大370×320ピクセル、縦横とも偶数、周囲に10ピクセルの余白、背景は透過、1枚1MB以下。これを16個ぶん手で揃えるのは、休みの日にやる作業ではありません
  • メイン画像とタブ画像 — スタンプ本体とは別に、240×240と96×74の画像が要ります。これも自動で作ってもらいました
  • 英語版の文章 — 販売地域を全世界にすると、スタンプのタイトルと説明文は英語も要ります。日本語は自分たちで考えて、英語はAIに作ってもらいました
  • アカウントの作り方と申請の手順 — LINE Creators Marketを使うのは初めてでした。登録から審査に出すまで、全部AIに聞きながら進めています。調べる時間はほぼゼロでした

もし規格を自分で調べて、16個を手で切って、サイズを揃えて……とやっていたら、お盆の1日では終わっていません。たぶん途中で面倒になってやめていた。この作業を消してくれたから、そもそも作れたというのが正直なところです。

つまり同じ日に、「任せて正解だったこと」と「任せて失ったもの」が両方起きています。違いは、それが作品の芯かどうかでした。

この記事も、同じ作り方をしています

もう一つ、同じことが起きた例があります。この記事です。

この文章は、2つを申請して審査を待っている時間に書きました。WordPressの管理画面には、一度もログインしていません。「こういうことがあったから記事にしたい」と話して、構成を相談して、下書きまで作ってもらいました。原稿の写真を切り出すのも、記事に貼る比較画像を作るのも、同じです。

自分がやったのは、読んで直すことでした。

たとえば最初の下書きには「夜になって、元の絵と出来上がりを並べてみた」と書かれていました。実際は違います。1本目ができていく途中を横で見ていた妻が、自分も描くと言い出した——そういう流れでした。原稿についても「1枚の紙に16個がぎっしり」と書かれていましたが、実際は何枚かに分かれています。どちらも、その場にいた人間にしか分からないことです。

絵のときと同じでした。何があったか、何を思ったかは自分にしかない。文章の組み立ても、画像の書き出しも、下書きの形にするところも、渡してしまえる。そして公開のボタンを押すのは自分です。

仕事に置き換えると

AIを仕事に入れたい、という相談をよくいただくようになりました。だいたい最初に聞かれるのが「何から任せればいいですか」です。

このお盆で出た答えは、芯は手元に置いて、それ以外は全部渡すでした。

うちの芯は「線」と「日本語の言い回し」でした。それ以外——向きの補正、切り分け、サイズ合わせ、規格の調査、英語への翻訳、アカウントの作り方、申請の手順——は、渡して困ったことが一つもない。むしろ渡さなければ完成していません。

同じ「文章を書く」でも、分かれました。スタンプに入れる日本語と、その説明文は自分たちで決める。英語版は渡す。作業の種類で線を引いたのではなく、自分が良し悪しを判断できるかどうかで引いていたことに、後から気づきました。

問題は、何が芯かは、やる前には分からないことです。うちも1本目を作って、元の絵と並べて、初めて分かりました。作っている最中は「可愛くなった」としか思っていません。

だから提案するとしたら、こうです。

  • 一度、全部任せてみる。 早さは本当に上がります。まずそれを体験しないと、何を戻すべきかの見当がつきません
  • 必ず元と並べて見る。 単体で見ていると気づけません。ここを飛ばすと、置き換わったことに気づかないまま進みます
  • 失って困るものが見つかったら、その工程だけ手元に戻す。 全部やめる必要はありません。うちも戻したのは絵だけです

会社なら、芯は文章の言い回しかもしれないし、写真に写っている店の空気かもしれない。何が譲れないかは業種によって違うので、一般論では決まりません。逆に言えば、それ以外はほとんど渡してしまえるということでもあります。

写真の仕事をしていると、この判断は毎回します。きれいに直せる部分と、直すと嘘になる部分がある。AIでも同じでした。

「次は文字まで書けばいいんだね」と言っていたので、3本目はたぶんあります。そのときはまた、渡す範囲が少し減るのだと思います。

どこまで減らすのがちょうどいいのかは、やっぱり作ってみないと分かりません。


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