フォトウェディング

海を初めて見た日に、結婚写真を撮った

三国サンセットビーチの堤防に並んで座り、日本海を見つめる新郎新婦

11月の三国サンセットビーチは、風が強い日が多い場所です。

この日もそうでした。ドレスの裾が横に流れて、ベールが飛びそうになる。晴れてはいるけれど、日本海の11月らしい、少し重たい色の空でした。

撮影したのは、オーストラリアから来られたご夫婦です。新郎は英語だけ、私は日本語だけ。共通の言葉がありませんでした。

波打ち際で向かい合い、両手を取り合う新郎新婦

依頼を受けた時点では、けっこう不安でした

写真は、指示どおりに人が動けば撮れる、というものではありません。

「今のよかったです」と声をかけて、相手が少し安心して、次の表情が出る。この往復が撮影の中身です。言葉が通じなければ、この往復が止まるのではないか。そう思っていました。

結論から書くと、止まりませんでした。しかも、止まらなかった理由は、私が事前に用意していた対策とは別のところにありました。

翻訳が効いたのは、撮っている間ではなかった

使ったのは、AirPods Pro のリアルタイム翻訳です。実用レベルでした。

ただ、役に立った場面が、事前に想像していたのと違いました。

撮影中には、ほとんど使っていません。

理由は単純で、撮影中の私は元々あまり喋っていないからです。新郎新婦とは距離が離れています。砂浜の端と端くらいのこともある。その距離では、日本語が通じる相手にも声は届きません。だからいつも身振りで指示を出しています。

手のひらを下に向けて少し下げれば「もう少し低く」。自分で顎を引いて見せれば、同じことをしてくれる。カメラを構えたまま片手を回せば「そのまま回ってください」になる。これは日本のご夫婦を撮るときにやっていることと、まったく同じです。

だからこの日、撮影中に言語の壁を感じた場面はありませんでした。

風の強い砂浜で、新婦を見て笑う新郎

撮影中に言葉が要らないことは、外国から来た二人を撮って初めて自覚しました。

効いたのは、支度の時間だった

支度のあと、祖母にベールを直してもらう新婦

翻訳が本当に必要だったのは、撮る前です。

衣装を着て、髪を整えて、その待ち時間に話を聞く。今日どこを回るか、何を残したいか、どこか気になっていることはないか。この時間だけは、身振りではどうにもなりません。

ここでリアルタイム翻訳が効きました。耳につけたまま相手の話が入ってくるので、聞くだけなら普通の会話とほとんど変わりません。こちらから返すときは、iPhoneに出た翻訳文を見せるだけで済みました。

そしてこの時間に、いちばん大事なことを知りました。

生まれて初めて、海を見た日だった

新郎は、オーストラリアの内陸のご出身でした。

そしてこの日が、生まれて初めて海を見る日でした。

海に囲まれた国の人が、海を見たことがない。言われるまで、そういうことがあるとは考えたこともありませんでした。支度の最中に、興奮しているのが伝わってきました。

これを撮る前に聞けたことが、この日いちばん大きかったと思います。知らずに撮っていたら、私はきっと余計な指示を出していました。

砂浜で片膝をつき、ブーケを差し出す新郎

通訳をしてくれたのは、新婦でした

新婦は日本語が少しできました。

細かいところは新婦が新郎へ伝えてくれる、という形も並行していました。通訳をお願いしてしまったことになります。本来はこちらが用意すべきところで、申し訳なさもありました。

ただ、新婦は新郎のことを分かっているので、「顎を引いて」を「顎を引いて」とは訳しません。その人に通じる言い方に変えて渡してくれます。正確な訳が出てくるより、そちらのほうが速くて、届いていました。

最後は、言葉が要らなかった

ウェディングドレスの裾を引いて、波打ち際へ歩いていく新郎新婦

撮影の後半、二人に堤防へ腰かけてもらいました。

ここで、新郎が海に見入ってしまいました。

支度のときに聞いていたので、私はそれが何の時間か分かっていました。生まれて初めて見る海を、見ている時間です。

指示は何も出していません。出さないと決めていました。風の音と波の音だけがあって、生まれて初めて海を見ている人と、その隣にいる人がいる。この時間がいちばん長く、いちばん撮れました。

依頼を受けたときは、言葉が通じないことを不利な条件だと思っていました。でもこの場面に関して言えば、通じたところで私に足せるものは何もありません。声をかけないことが、この日いちばん意味のある判断でした。

日本海は、この季節はきれいな海ではありません。空は重たいし、波は荒いし、風で砂が飛んできます。地元の人間は、わざわざ11月に海へ行きません。

その海が、誰かの人生で最初の海になりました。

三国サンセットビーチの堤防に並んで座り、日本海を見つめる新郎新婦

そのあと、新婦の祖父母が合流されました。

海を背に、新婦の祖父母と一緒に手を上げる新郎新婦

海を背に並んで、全員で手を上げてもらいました。ここでも私は日本語で「せーの」としか言っていません。誰も困っていませんでした。

夕方の光を背にした新郎新婦のシルエット

撮影が終わって車に乗り込むとき、新郎と新婦の祖母が抱き合っていました。私はそれを離れたところから撮っていました。この日撮った111枚のなかで、いちばん言葉が要らなかった一枚です。

撮影を終えて車に乗る前、新婦の祖母と抱き合う新郎

海外から来られる方の撮影について

同じようなご相談をいただくことがあるので、実務的なことを書いておきます。

通訳は、できればご用意ください。 ご家族やご友人で構いません。この日のように新婦が担ってくださる形でも成立しますが、その方はずっと通訳をしながら撮られることになります。主役に仕事をさせてしまうので、本当は別の方がいるほうがいい。

撮影前の打ち合わせは、文字でやりとりするほうが確実です。 メールやメッセージなら翻訳をかける時間があります。当日その場で決めることを減らしておけば、撮影中に言葉が必要な場面は驚くほど少なくなります。

支度の時間を、削らないでください。 この日の経験でいちばん強く思ったのはここです。衣装合わせとヘアメイクの待ち時間は、一見すると撮影ではありません。でも、翻訳の道具が本当に要るのはこの時間で、ここで聞けた話が、そのまま撮る内容を決めます。

リアルタイム翻訳は、実用になります。 この日はAirPods Proを使いました。耳につけたまま相手の話が入ってくるので、聞くだけならほぼ普通の会話です。返すときはiPhoneの画面を見せれば足ります。ただし効くのは支度の時間で、撮影中は元々そんなに喋っていないということも、あわせて分かりました。

撮影そのものは、心配しなくて大丈夫です。 これが一番お伝えしたいことです。この日の111枚を見返して、言葉が通じなかったことが写っている写真は1枚もありませんでした。

ブーケの上で重ねた二人の手と結婚指輪

三国サンセットビーチについて

坂井市の三国にある砂浜です。名前のとおり夕景で知られていますが、この日のような昼過ぎの光でも撮れます。

波打ち際までドレスで下りられるので、海に入っていく画も、砂浜に裾を広げた画も残せます。11月は風が強く、それは困ることでもありますが、ドレスとベールが横に流れるので、無風の日には撮れない写真になります。

日本海の風にドレスの裾とベールが横へ流れる新婦

駐車場から砂浜までが近く、着替えや休憩のために車へ戻れるのも、長時間の撮影では効いてきます。

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